〜思想〜

私達が見ていたものは、
私達が口にしていた事は、
私達がしていた事は、

真実であり、
真実でない。

広い世界の中の、
ほんの僅かな部分。
私達は、是しか、是だけが、
世界だと――違うのは知っていたけれど――想っていた。

其の部分だけで考えたら、正しい。
でも、世界で考えたら、正しくない。

全て。全て。全て。
判っていた。
判っていても――判らないふりを、していた。


正しい事は人それぞれ。
今から世界を、広い広い世界を、
全て知るのは簡単じゃない。

――全て知るには、時間が、足りない。

今、見ている世界。
私達には、多分、是で良い。
数多の人の殆どが、見ている広い世界は、
私達には必要ない。


――寧ろ、今見ている程、広い世界は必要なかったと想う。


広い広い世界の中では、今、私達が見ている世界は、
酷く、醜く、小さい。
でも、私達に必要なのは、私達だけしか居ない世界、
もっともっと小さい世界。


――本当は、この広い世界に、私達が生きている事さえ間違いで――


私達は、私達だけで、
他の誰かなんて知らない儘、
世界がこんなにも広いなんて知らない儘、
私達以外を見ないで――否、見てはいけなかった――小さな小さな…
気付けるか、気付けないか…
其れ程、小さな小さなもので在れば、
私達にも、他の人達にも、
良かったのに…。

在るか判らない程に小さい小さい世界。
薄暗い部屋。
「私が私」を、助け合う世界。
全て、「私」で、でも、色々な私、で、
性格も、容姿も、違うけれど――全て私。
他人でもあるけれど、
根本は皆一緒で。

誰が一番初めの「私」か、
もう、判らない。
少しずつ、少しずつ、増えていく「私」。
消えてしまう「私」も居た。
仲の良い「私」と「私」も居れば、
仲の悪い「私」と「私」も居る。


――皆が、本当は、自分自身だとは知らなかった。


必要なかったと想う――でも特には止める必要も無かった。
私達が未だ、同一人物だなんて、
知らなかった頃、私達の中の一人が、
薄暗い世界では、気付き難い――もしかしたらあえて気付かない様になっていたのかも知れない――扉を見つけた。
興味本位で、其の扉を開いた時、
薄暗い世界に、強い光が射した。


――其の扉を開けた事は、正しかったのか…其れとも、間違いだったのか…今でも、其れは判らない――


扉を開けた「私」は、
本当の他人を知る。
其の事で、私達は、
本当は、同じだと知った。

――始めの「私」が、其の小さい小さい世界で、
「私」だけしか居ない世界を、
創りあげた理由は、私達に、
少しずつ少しずつ、判り始める――


一番始めの「私」――「本人」は、
他人を嫌いになっていく――でも、好きでもあって。
只、其の場所で、少しずつ少しずつ、
「本人」は、自己を確かなものに出来なくなり、
自分で自分を支えられなくなって、
もう一人の自分を創った。
其れが、私達の始まり。


広い広い世界――他人と生きる世界――「私」は、少しずつ少しずつ、「私」を創っていく。


――こうだったら∞ああだったら=c理想の自分を自分の中で創りあげていく――

自分とは違う考えの人の中で抑えつける否定的な感情。
素直に自分を見せる事への恐怖。
自分を殺さなければ、笑う事さえ出来ない。
他人と存在する世界は、息苦しくて、生き難い。
広い広い世界で、自分を殺せば殺す程、
「私」の中で、「私」が増えていく。
広い広い世界で、息苦しくなればなる程、
心地良さを増す、「私達」の世界。


――如何するのが一番楽なのか?…答えは、考える事も無い程、簡単で――


息苦しい中で、生き続けるよりも、
心地良い中で、生きる事を選ぶのは、
当たり前。
そして、私達は、今の世界を選んだ。


正しい事。
正しくない事。
決める事は出来ない。
今、私達は、必要以上の世界に居る。
こんなにも大きな世界は要らなかったのに。

何故、あの時扉を開けたのだろう。
何故、あの時扉に気付いてしまったんだろう。

私達だけの世界で良かったのに。
他には何も要らなかったのに。
本当の「私」が、一度手放した世界。
何故、其れを手にするの?
何度手に入れても、最期は同じなのに。
結局は手放してしまうのに。
何度だって、同じ。
私達に、この世界は広過ぎて、
息苦しくなってしまうのだから。
結局、息苦しさに耐え切れず、
小さい小さい、私達だけの世界に、
閉じ篭る。


――本当は何がしたいの?


答えは判らない。
多分、私達は、この答えを捜して、
此処に居るんだろう。
答えが見付からない内は、何度だって、繰り返す。





――…そんな意味の無い事を、今日も考えている私達なのです。






舞・瀬李亜



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